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さよなら86

posted at 2023-12-17 23:59:00 +0900 by kinoppyd

ちょうど3年前に86という車を買って、今日売却した。

車を買うまで自分がこんなに運転が好きだと知らなかったので、かなりさみしいお別れになってしまった。手放した理由は子供が産まれたからで、2ドアのスポーツカーでは後部座席に取り付けたチャイルドシートに子供を乗せ入れするのが凄く大変だったからだ。そしてそれを自分でやるならまだしも、後部座席で子供の面倒を見る妻の負担が大きかったので、仕方なく乗り換えることになった。次はKINTOで借りた新型プリウスに乗ることになる。

なんとかして家族用の車と自分の趣味の車を二台保持できないかどうか考えたが、どう考えても普通のサラリーマンの給与では現実的では無かった。無理すればできるけど、その無理を強いるのは自分だけでは無く妻や子供だ。それは普通に嫌だろう。家の遠くに駐車場を借りたとしてもどうせ頻繁に乗らなくなるのは目に見えているし、都内の駐車場は高い。スポーツカーは保険も高いし、ハイオクのガソリンも高い。税金も高い。諦めるしかなかった。

86との出会い

そもそもなんで86を買うことになったかというと、かつてお台場にあったMEGA WEBというトヨタの大型ショーケースみたいなところに、試乗の予約を入れたことから始まる。

14年くらい前に車の免許をとったが、それから10年くらい一度も教習所意外でマニュアル車に乗ったことがなかった。レンタカーやカーシェアにマニュアル車は無いからだ。とくに強い気持ちがあったわけでは無いが、あのロボットを操縦しているみたいな操作感で車の操縦をもう一回くらい体験してみたいなと思い、マニュアル車に乗る方法を調べてみたことがあった。その中の方法の一つが、MEGA WEBの有料試乗だった。MEGA WEBはトヨタの展示場なので、だいたいのトヨタの車が試乗できたような記憶があるが、正確にはよく覚えていない。正直なところ、その時点では全然車は興味がなく、ただ単にマニュアル車ってロボットみたいで楽しかった記憶あるな〜、人生でもういっかいくらい乗ってみたいな〜程度の気持ちしか無かった。

MEGA WEBの試乗予約を入れて、友達と一緒に乗りに行った。何の車種を予約したのかは覚えていないが、86以外の車を予約していた。しかし、当日行ってみるとスポーツカーが空いているよと聞いたので、せっかくだしスポーツカーって奴に乗ってみるかとおもい乗ったのが86だった。マニュアル車設定があるトヨタ製のスポーツカーはそれしかなかった気がする。多分。

そのときに乗った86に、自分はかなり驚いた。こんなに車に乗り込んだときに低い位置に視線がくる車があるのか! とかなりびっくりした覚えがある。そしてそれ以上に驚いたのは、スポーツカーなのに300万円位なんだ!? ということだった。車のことになんの興味もなかったので、スポーツカーってもっとべらぼうに高い物だと思っていたため、頑張れば買えるやんという衝撃があった。

マニュアル車の運転は楽しかった。やっぱり記憶の中にあるロボットを操作する感があって、たのし〜ってなるやつだった。これもっと乗ってみたいなと思ったのが運の尽きだった。MEGA WEBの罠にまんまと嵌まり、ディーラーに行けばもうちょい試乗できるんじゃないかと思ってしまい、試乗したら気づいたら買おうという気持ちになっていた。怖い。

車に少し興味が出てきた

86を買うまでは車には微塵も興味が無かった。高いし。唯一、ジェームズボンドのシリーズの大ファンなのでいつかはアストンマーチンDBSに乗ってみたいなと思うくらいの興味しか無かった。本当に興味がなかった。なんで86買ったのさってくらいだった。

86を注文してから実際に届くまでの間には、5ヶ月くらいのラグがあった。ちょうどコロナによって電子部品が不足しはじめていた頃で、人気でもない車でも納期は軒並み何ヶ月も待たされるのが普通だった。ましてや86は大量に売れる車でもないので、生産する時期が決まっているみたいでだいぶ待たされた。

その間に、全く興味がなかった車に関して色々調べていた。さすがに全く車のことを知らずに車を所有するのも怖いなという気持ちもある。エンジンの仕組みや、トランスミッションの仕組み、ブレーキの構造や最近の車のコンピュータ制御の仕組み、他にもシートベルトの進化の過程とかなんかも調べたりしていた。あとは一応頭文字Dも全部読んだ。

その結果わかったのは、車の進化はかなりエキサイティングで面白いということだった。内燃機関の自動車が誕生してから、何度も何度も問題が見つかってはそれを解決するの繰り返しが行われており、最初はものすごく単純な構造だった自動車が徐々に複雑に進化していく様子を辿っていくのは興味深かった。エンジンの生み出す力をタイヤに伝えて動かすだけでも、ただ単にシャフトでつなぐだけでは様々な問題があり、それらをクリアするためにとんでもないユニークな仕組みを考えつく人たちがいて、それの繰り返して今日の自動車は存在していることが窺い知れた。

運転は楽しい

様々な車に関する知識を手に入れると、運転することがとても楽しくなった。マニュアル車はエンジンとタイヤが理論上直接つながっていている。だがその間にはトランスミッションという力を伝えるためのギアボックスが挟まっており、エンジンの出力を最大限に生かすギアチェンジやアクセルワークなどを練習するのが楽しかった。エンジンブレーキを生かす走り方や、コーナーを曲がるときにシフトを落としたりする練習をするのも楽しかった。あまり褒められたことでは無いが、高速の合流などでレブリミッターまでエンジンを回すのも楽しかった。

でもそれ以上に楽しかったのは、自分の車は自由な時間をくれることだった。自分と助手席の妻と二人だけで、レンタカーみたいに時間に追われることもなく、自分たちのペースで旅をすることができるのがとても良かった。

もちろん、運転してる最中は本はおろかケータイも見れないし酒も飲めないので、時間の効率としては電車や飛行機に乗ってる方がよっぽど良かったと思う。でも電車や飛行機は他人に気を遣いながら、あるいは他人に気を遣われながら小さくなって過ごさなくてはいけないのが好きではない。自分の車であれば、自分のペースで、自分の好きな音楽を聴きながら、妻と二人っきりで旅行ができる。当然車だって自分勝手に走って良いわけではないのでルールもあるし気を遣う点もあるが、電車や飛行機に比べると段違いだ。何時までに家をでなきゃいけない、何時の電車に乗らなきゃいけない、持っていける荷物はせいぜいスーツケース一つ。そういう制約は車には無い。自分が好きな時間に、好きなように荷物を積んで、好きな人と静かに会話しながら旅ができる。自分に合っているのはそっちの方だった。

86を買ってからは、妻と二人でいろんなところに日帰りで旅行した。そもそも猫を飼っており泊まりの旅行はできないので、関東近郊の様々な場所に遊びに行った。86のバケットシートは意外と座り心地も悪くないので、妻も気に入ってくれた。二人で楽しくお話ししながら、自分のペースで走れる86を運転するのがとても楽しかった。

そして妻も乗せず一人でドライブをするときは、自分一人の孤独の時間に浸れることも良かった。自分はさみしがり屋ではあるが、孤独な時間は好きだった。真夜中にドライブをすれば、自分だけの時間がそこにあることが楽しかった。それを選べることも運転が好きな理由だ。

家族とスポーツカー

86を買うときに、子供が産まれたら手放すという話を妻とはしていた。普通に考えて、まあチャイルドシートを86に乗せて運用するのは無理だろう。買うときにはその約束に関して何にも思っていなかった。あんなに運転が楽しいと知らなかったからだ。

子供が産まれて、1年の間は妻の許しを得て86に乗っていた。そもそも幼児をつれて長時間外出ができないので、乗る機会がものすごく減ったというのもあるが、それでもたまに乗るときは妻に不便をかけながら乗っていた。86は特殊な車なので、適合するチャイルドシートも限られていて、ほぼ一択くらいしかなく、それも面倒なところだった。

まだ子供がそんなに動くパワーが無い頃は良かったが、最近はものすごい勢いで成長して、自分の意思でかなり体を動かせるようになっている。そうなってくると、86は狭すぎて何かと不便なのだ。半年前に、諦めて86の売却を決断した。さみしかったが、車より家族の方が何億倍も大切なのでそれは仕方が無い。

やや見えている希望

86を買う決断をした理由の一つに、おそらく今後2リッターの水平対向NAエンジンを積んだライトウェイトスポーツカーは二度と発売されることは無いだろうというのもあった。世の中は脱炭素の世界に舵を切っており、EVもしくは最低でもハイブリッドが最低条件になるだろう。ロードスターだって次期モデルはどうなるかわからない。ポルシェやフェラーリまでEV車をを出しており、EUも法律で今後は純ガソリンエンジン車は作れないだろう。だからこそ、内燃機関のマニュアルセッティングがあるスポーツカーを買えるチャンスはこれが最後じゃないだろうかと予想したのだ。

ところが蓋を開けてみれば、86は新型を2.4リッターで出すし、EUはガソリン禁止の法案を撤廃するし、まだまだあと数年は純内燃機関のマニュアルセッティングがあるスポーツカーは出てきそうだ。これなら、子供がある程度大きくなってから趣味の車を買うこともできるのでは無いかという一縷の望みも見えてきている。それくらい金を稼げるかどうかは別問題だが。

また、トヨタが水素エンジンに本気を出していることも予想外だった。モーターの性質上、EV車にはマニュアルセッティングは存在しない。意味が無いからだ。ところが、水素エンジンはガソリンと近いエンジン特性を持っているので、マニュアル車が生き延びる先として非常に熱い候補だ。もしかしたら数十年後も、マニュアルセッティングのあるスポーツカーが新車として発売されるかもしれないという希望が残っている。

そんな日を夢見ながら、来月からはプリウスと一緒に子供の成長を見守ろうと思う。今まで本当にありがとう、86。